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判例 39
外食チェーンの新入社員の長時間労働による死には会社の取締役にも責任があるとされたケース
実務を担当する者が判例から何を学ぶかを解説しています。
【判例】
判決日 裁判所 判例内容(判例時報2081号より)
平成22年5月25日民6部判決、一部認容、一部棄却(控訴) 損害賠償請求事件、京都地裁平20(ワ)4090号(甲事件)・同21(ワ)64号(乙事件) 飲食店従業員が急性心不全により死亡した事案につき、会社の損害賠償責任が認められたほか、会社の取締役に対し、長時間労働を前提とした勤務・給与体系をとっていたとして会社法429条1項に基づく責任が認められた事例
この判例から学ぶ
1.会社の従業員の死が業務災害かどうかをめぐる裁判例は珍しくはないが、従業員の死亡の原因に取締役の任務懈怠(かいたい)責任(会社法429条1項 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う)があったとする点において参考になるのでここで取り上げた。判例時報2081号145頁のコメントによると、同種事案では取締役の責任を認めた裁判例はあるが、本事案と異なりいずれも小規模企業である、としている。
2.会社は、全国900店以上を展開をする東証一部上場の外食チェーン企業で、従業員は大学卒業後入社した新入社員(当時24歳)で、店舗に勤務するうちに入社4ケ月後に急性左心機能不全で自宅で死亡し、労働基準監督署から業務災害の認定を受けたものである。そこで、死亡した社員の両親(原告)が、死亡の原因は会社(被告)での長時間労働にあると主張して、会社に対して不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき損害賠償を請求するとともに、会社の取締役(代表他計4名)に対しても不法行為又は会社法429条1項に基づき損害賠償を請求したのが本事案である。
3.本事案の争点は、1.当該社員と被告会社における労働の因果関係、2.被告らの責任、3.損害、4.過失相殺、の4つでこれに対する裁判所の判断は次の通りである。
4.争点1.について、
当該社員の労働時間は、4か月にわたって毎月80時間を超える長時間労働となっており、従事していた仕事は調理場での仕事であり、立ち仕事であったことから肉体的負担が大きかったといえることからすれば、厚生労働省の基準に照らしても、直接の原因となった心疾患は、業務に起因するものと評価でき、被告会社の安全配慮義務違反等と死亡との間に相当因果関係を肯認することができる、とした。
5.争点2.について、
(1)被告らは会社組織体制上、そして勤務時間を管理すべき上部部署として、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていた。
(2)しかるに、被告会社では、時間外労働として1か月100時間、それを6か月にわたって許容する36協定を締結しているところ、これは厚生労働省の基準で定める業務と発症との関連性が強いと評価できるほどの長時間労働であることからすると、労働者の労働状況について配慮していたものとは認められない。
(3)また被告会社の給料体系において、基本給の中に、時間外労働80時間が組み込まれているなど、到底被告会社において、労働者の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないような適切な措置をとる体制をとっていたものといえない。
(4)確かに、被告会社のような大企業においては、被告取締役らが個別具体的な店舗労働者の勤務時間を逐一把握することは不可能であるが、被告会社として36協定を締結しており、これは被告取締役らが承認したことは明らかで、このような36協定や給与体系の下では、恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提としていたものといわざるを得ない。
(4)そうすると、被告取締役らにおいて、労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく、厚生労働省の基準からして、一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり、それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから、被告取締役らは、悪意又は重大な過失により、そのような体制をとっていたということができ、任務懈怠があったことは明らかである。そして、その結果、当該社員の死亡という結果を招いたのであるから、会社法429条1項に基づき、被告取締役らは責任を負う。
(5)なお、被告取締役らは、被告会社の規模や体制からして、店長や料理長のように直接、当該社員の労働時間を把握・管理する立場ではなく、日ごろの長時間労働から判断して休憩、休日を取らせるなど具体的な措置をとる義務があったとは認められないため、民法709条の不法行為上の責任を負うとはいえない。
6.争点3.について、
死亡による逸失利益、死亡による慰謝料、葬祭料、損益相殺(労災保険からの葬祭料、被告会社からの死亡弔慰金などの相殺)、弁護士費用などである。(詳細省略)
7.争点4.について、
当該従業員の基礎疾患や慢性的な睡眠不足や過度の飲酒、日常生活における不摂生、健康を保持すべき義務(自己管理)を怠ったなどの点は、過失相殺として取り上げられない。又、当該社員が真面目であり、几帳面であることなどから、その性格が死亡に寄与したことを理由に過失相殺することが考えられるが、前記性格は一般の社会人の中にしばしばみられるものであって、労働者の個性として通常想定される範囲内のものであるから、被告らの賠償すべき損害額を決定するにあたって考慮すべき事情であるとまではいえない。
8.以上が各争点に対する裁判所の判断である。新入りの大卒正社員として第一線の店舗で、経験を積んだパートタイマーよりも高い給与で、不慣れな仕事を教わりながらの立ちっぱなしの恒常的長時間勤務は、心身共に疲れるものである。これは経験のある者にはわかるであろう。会社としては従業員の健康管理には配慮をしていたと思われるが、会社の給与制度と全国店舗共通の36協定締結の面で、裁判所が指摘するような事実があったとするなら、取締役に任務懈怠を問われてもやむを得ないといえるだろう。逆に、民法の不法行為上の責任までは問われていないことは、取締役の役割と立場を明確にあらわしていると言えよう。
資料出所;判例時報社発行の判例時報の2081号
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