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判例 36
マスターフランチャイザーとエリアフランチャイザー間の地区本部契約終了後の競業避止義務履行の強制をめぐる高裁の決定
実務を担当する者が判例から何を学ぶかを解説しています。
【判例】
判決日 裁判所 判例内容(判例時報2049号より)
原審東京地裁平20(ヨ)461号、平成20年3月28日判決 標章使用等差止仮処分命令申立却下決定に対する抗告事件、東京高裁平20(ラ)537号、平20・9・17民8部判決、抗告棄却(確定) フランチャイズ契約終了後の競業避止義務違反行為などの差止めを求める仮処分命令の申し立てについて保全の必要性を欠くとして却下された事例
この判例から学ぶ
1.本件の概要は次の通りである。
マスターフランチャイザー(総本部)は株式会社ほっかほっか亭総本部(X)で、エリアフランチャイザー(地区本部)は株式会社プレナス(Y)である。原決定は、Xによる本件地区本部契約の更新拒絶には、やむを得ない事由が存在せず、更新拒絶の意思表示は無効であり、したがって被保全権利の疎明がないとして、Xの本件仮処分の申し立てを却下した。
そこで、Xは、原決定を不服として抗告をしたものである。本決定は、YにはXの方針に反する営業を展開するなど本件地区本部契約に違反する行為があり、信頼関係が破壊されたと認められ、Xは契約更新を拒絶することができるし、また、Yには信義則上の競業避止義務違反があるとしたが、Yの損失・負担の増大等判文(省略)のような事情を考慮すれば、XのYに対する競業行為の差止めを求める本件仮処分の申し立てを認容することができないと判断し、原決定の結論は相当であるとして、本件抗告を棄却した。これが本件の概要である。
2.本件を紹介した判例時報の注釈(判例時報2049号21ページ)によると、「なお、競業避止義務違反行為等の差止めを求める仮処分は、民事保全法23条2項にいう仮の地位を定める仮処分であるから、債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためにこれを必要とするという必要性が要件とされるている。したがって、債権者が被る損害の性質、内容が事後の損害賠償によって償い得、かつ、債務者の被る損害が相当に大きいと解せられるときは、仮の地位を定める仮処分は許されないとされている。本決定は、右判例理論に依拠し、本件仮処分命令の申立てを却下すべきであるとしたのであるが、類似先例の見当たらない珍しい決定であるので実務の参考として紹介する」という注釈が付いている。
3.やや前置きが長くなったので、抗告人Xと相手方Yがここまで至る経過は省略し、本件の争点(次の3つ)と高裁の決定に絞って見てみると、次の通りである。
(1)地区本部契約の帰趨について
地区本部契約が終了しているかどうかであるが、終了していることには当事者間に争いはない。Xは、総本部の更新拒絶の意思表示により契約は、静岡県については平成19年8月末日限り、埼玉県、群馬県、宮城県、山梨県及び福島県については、平成20年2月末日限り終了したと主張した。これに対しYは、これを争い、Yの解約の意思表示によって平成20年5月14日限りで契約は終了したと主張した。
これに対して裁判所は、Yの全国地区本部長会議への意図的な欠席、商標権をめぐる訴訟、消費期限が過ぎたメニューの販売、独自のデザインの店舗の出店、店舗から離れた場所での弁当のワゴン販売、消費期限のラベルの貼り替えなど、YにはXの方針に反する営業を展開するなど地区本部契約に違反する行為があったとし、XとYとの信頼関係は破壊されたと認めるのが相当であるとし、Xが本件地区本部契約の更新拒絶の意思表示をしたことにはやむを得ない事由があったとした。
(2)相手方の競業避止義務の存否について
ア.黙示の競業避止義務の合意について
まず、Yに競業避止義務があったかどうかについては、裁判所はなかったとした。その理由は次の通りである。
@地区本部契約が結ばれた際に黙示的に地区本部契約終了後の競業避止義務が合意されていたとは認め難い。
A黙示的に合意によって有効に発生したと言うためには、競業避止義務を負う業種、期間、地域について合理的な限定が付されていることが必要であるが、そのような限定についても黙示的な合意があったと認め難い。
Bさらに、加盟店契約には例外なく競業避止義務が規定されているのに、本件地区本部契約にはそのような条項が置かれていない。
イ.信義則上の競業避止義務について
しかしながら、合意はなかったとしてもYには信義則上は競業避止義務があったとみるべきで、その理由は次の通りである。
@XとYとは、長期にわたる継続的なフランチャイズ契約(本件地区本部契約)関係にあったこと。
AYは九州地域(山口県を含む)及び東日本地域(青森県、岩手県、秋田県、茨城県を除く)をその営業範囲とする屈指のフランチャイザーであったこと。
B本件地区本部契約7条1項3号には、「地区本部及び主たる出資者(地区本部に対しての)は、それぞれ本契約を締結するにあたり、次のことを総本部に表明する。」「本契約に従い許可されたテリトリー内において、またはテリトリー外においても類似営業を直接、または間接でも行わない。」と定められていたこと。
C「ほっかほっか亭」の名称による持ち帰り弁当事業のフランチャイズシステムを始めたのはXであり、もしYに契約終了後の競業避止義務が全くないとすれば、YはXから開示を受けたノウハウ等を利用して契約終了の日の翌日からでも別のフランチャイズシステムを構築して持ち帰り弁当事業を展開することができ、これではXは甚大な損害を被ることになり、Xが築いた無形の財産の保護にも欠けることになる。
DXと静岡県、宮城県、山形県及び福島県の各地区における前エリアフランチャイザーとの地区本部契約が終了する際には、Xは前エリアフランチャイザーとの間でその1年間の競業避止義務を合意してYの営業を保護する措置を講じていること。
EまたYにおいても「ほっかほっか亭」フランチャイズシステムを維持するには、契約終了後の1年間程度の競業避止義務が必要であるとの認識を持っていたと認められること。
F本件地区本部契約にYの競業避止義務の発生を阻止する明文の規定はない。
以上の点にかんがみると、本件地区本部契約が終了した場合においては、特段の事情のない限り、本件地区本部契約に付随する義務として、信義則上、YはXに対して一定期間の競業避止義務を負うものと解するのが相当であり、そして、その競業避止義務の内容としては、契約終了後1年間持ち帰り弁当事業をいかなる名称や業態によっても本件地区本部契約に係る地区(テリトリー)内では行わない旨の義務であると解するのが相当である。
しかるところ、Yは平成20年5月15日以降、「ほっかほっか亭」フランチャイズチェーンを離脱したとして、自己の従前の加盟店を自らが展開する「ほっともっと」フランチャイズチェーンに移行させて、持ち帰り弁当事業を営んでいるのであるから、そうとすれば、この行為は「ほっかほっか亭」フランチャイズチェーンを破壊し、マスターフランチャイザーたるXの「ほっかほっか亭」フランチャイズチェーンの事業展開を著しく妨げるものとして、上記の競業避止義務に違反するものというべきである。
ウ.差止請求の可否について
上記のとおり裁判所は、本件地区本部契約では、Yの競業避止義務は規定されていないが、信義則上Yには一定期間競業避止義務を負うのが相当であるとした。しかしながら、裁判所はXがYの上記競業避止義務違反行為を差し止めることまでは、できなものと判断した。その理由を次のように述べている。
@競業避止義務は双方の合意によって発生したものではなく、地区本部契約に付随する義務(債務)として信義則上発生したもので、履行自体の強制を求め得るような強い効力があるとは解し難い。
A一般的にも付随的義務は、それが付随的義務にとどまる限り(合意によって契約内容に高められない限り)履行自体の強制をされるものではない(履行者の任意の履行に期待する以外にない)、と考えられていること。
B競業避止義務は、義務者の営業の自由を強く制約するものであること。
C確かにYの競業避止義務違反によるXの被害は甚大であるが、Yが「ほっともっと」フランチャイズチェーンによる持ち帰り弁当チェーン事業を差し止められることによって被る損失・負担も甚大であり、特にその加盟店に及ぼす影響には極めて大きいものが認められる。
以上の点にかんがみると、XはYに対して競業避止請求権の効力として競業避止義務の履行の強制を裁判所に求めることはできないもというべきであり、(本案によるにせよ、仮処分によるにせよ)、最終的には競業避止義務違反を理由とする金銭損害賠償の請求(民法415条)によって満足するほかないものというべきである。よって、この点のXの主張は採用することができない、とした。
(3)本件地区本部契約12条2項の解釈について
地区本部契約12条2項は、「本契約終了と同時に、地区本部の加盟店との契約上の地位は、総本部がこれを継承する」と想定しており、加盟店契約41条は、「加盟店は本部と総本部とのサブフランチャイズ契約が終了した場合、そのサブフランチャイズ契約の定めるところにより、本部の加盟店に対する本契約上の地位を総本部が継承することを承諾する」となっている。これにより、Yはこの加盟店契約との関係では、第三者となるに至ったことになる。しかるに、Yは従前の加盟店の約72パーセントにあたる店舗との間で「ほっともっと」フランチャイズチェーン加盟店契約を結び、これらの店舗を傘下に置くに至っている。
そこで原審においては、Xは165店舗については「ほっともっと」フランチャイズチェーン加盟店へ移行するよう勧誘するおそれがあるとしてYによる勧誘行為を禁止する仮処分の申し立てをしていたが、当審においてはすでに移行した117店舗においては申し立てを取り下げた。
だがなお従前の加盟店契約にとどまっている48店舗については、勧誘の恐れがあるとしてXは勧誘行為を禁止する仮処分の申し立てをしているが、裁判所は、本件全証拠(省略)によっても申し立てを認容することはできない、とした。
なお仮にYにそのような勧誘行為に出る恐れがあったとしても、それはXと加盟店との間の加盟店契約にもとづくXの権利・義務を侵害する性質のものに過ぎず、いわゆる第三者の権利侵害に当たり、そのような第三者の侵害行為の場合には、そのような侵害行為が通常の勧誘行為にとどまる限りは、加盟店契約に基づく債権の効力として第三者に対してその侵害行為を止めるよう求めることはできない。
したがって、この点からもXの上記仮処分の申し立ては認容することはできないものである。これが高裁の決定である。
4.ここに見るようなマスターフランチャイザー(総本部)とエリアフランチャイザー(地域本部)間の争いは珍しい。実際に、3つの地域(エリア)でサブフランチャイズ制の仕組みづくりと開発・運営に携わった私自身の経験からすると、フランチャイズ事業の中核となる個々の加盟店のフランチャイズ・パッケージが出来上がっていれば、地区本部契約そのものは、本来シンプルなものでトラブルが生じる余地は少ない。本件の例は、地区本部制を採用して全国展開し、各地区本部が買収や合併を繰り返して大きくなって来た結果、フランチャイズ事業がよって立つ商標権がどこに帰属するのか、曖昧になったことによるものであろう。
すでに紹介した通り、判例時報は「本決定は、右判例理論に依拠し、仮処分命令の申立てを却下すべきであるとしたのであるが、類似先例の見当たらない珍しい決定であるので実務の参考として紹介する」とコメントしている。本件事案は、法律面の解釈については実務家にとっては難しいが、契約終了後の競業避止義務について考えるには格好の判例であろう。
最後に、裁判所が、ウーCで「確かにYの競業避止義務違反によるXの被害は甚大であるが、Yがほっともっとフランチャイズチェーンによる持ち帰り弁当チェーン事業を差し止められることによって被る損失・負担も甚大であり、特にその加盟店に及ぼす影響には極めて大きいものが認められる」として、本部のいざこざによって迷惑を被る加盟店のことにも触れているのは救いである。
資料出所;判例時報社発行の判例時報の2049号
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